SF・異色短編(1) 藤子・F・不二雄大全集 (てんとう虫コミックススペシャル)
内容紹介
ドラえもんの生みの親が見せる不思議な世界。 藤子・F・不二雄先生が、子供向けの殻を脱ぎ捨て、大人向けに解き放った異色作群。
ミノタウロスの皿
「命を食べる側」と「食べられる側」の価値観が逆転した世界。主人公が必死に説得を試みれば試みるほど、ヒロインのミノアが浮かべる「聖母のような微笑み」が絶望的に美しく、そして恐ろしい。正義も倫理も、所詮は「その土地のルール」に過ぎないという真理を突きつけられ、読後しばらく食事が喉を通らなくなるほどの衝撃です。
劇画オバQ
「子供時代の終わり」を告げる死刑宣告。 かつての同居人・Q太郎が大人になった正ちゃんのもとを訪ねる物語。しかし、そこにいたのは夢を追う少年ではなく、生活と現実に追われる「一人の男」でした。Q太郎の変わらぬ無邪気さが、正ちゃんの(そして読者の)失ってしまった純粋さを残酷に照らし出します。ラストシーンのQ太郎の去り際は、全漫画史に残るほど切ない「決別」です。
ノスタル爺
30年ぶりに故郷へ戻った男がタイムスリップし、若き日の妻と再会する物語。一見、感動的な再会に見えますが、その実は「過去に囚われ、現実から切り離される」という狂気の物語でもあります。「抱きしめたい」という純粋な愛着が、時空を超えて執念へと変わる様は、美しくもどこか不気味で、老いることの残酷さを感じさせます。
やすらぎの館
仕事に疲れ果てた男が、赤ん坊に戻って甘えさせてくれる秘密の館に通う物語。現代社会のストレスを予見していたかのような設定ですが、そこで描かれる「バブみ」の描写は、今読んでも全く古びていません。しかし、その「やすらぎ」の代償として人間としての尊厳が溶けていく描写には、依存症の恐ろしさが潜んでいます。
どの話も、最初はコミカルな絵柄で油断させておきながら、最後には読者の足元にある「常識」という名の床をバサリと抜き去っていきます。
短編という限られたページ数の中で、これほどまでに濃密な哲学と、鮮やかな「どんでん返し」を詰め込める構成力は、まさに神業。大人になった今だからこそ、一言一句を噛み締めて読むべき「思考の劇薬」だと改めて痛感しました。