アルスラーン戦記(23) (週刊少年マガジンコミックス)
内容紹介
新旧英雄、慟哭の決戦
アンドラゴラス王の急死により、主を失った王都エクバターナ。しかし、そこに降臨したのは次代の王ではなく、かつてパルスを支えた「死せる万騎長」たちでした。
蛇王ザッハークの秘術により、悪鬼となって蘇ったカーラーン、シャプール、そしてアルスラーンの師でありダリューンの叔父でもある大将軍ヴァフリーズ。彼らは冷徹な言葉で、生き残った者たちの「覚悟」と「出生」を否定し、容赦なく襲いかかります。
「呪われた血を受け入れ、なお忠義を貫けるか」「憧れた背中を、自らの手で切り伏せられるか」。パルスの未来を懸けた戦いは、肉親同士が命を削り合う残酷な試練へと姿を変える。絶望の夜、少年王と騎士たちが下した決断とは・・
ヒルメスとザンデ、呪われた血の先の「絆」
今巻で最も胸を打つのは、ヒルメスとザンデの主従関係です。実の父であるカーラーンから「偽りの王に仕えるのか」と問われながらも、涙ながらにヒルメスへの忠誠を叫ぶザンデ。そして、自らの出生の呪いを受け入れ、ザンデの手を汚させまいと「汚れ仕事は俺が引き受ける」とカーラーンを斬ったヒルメス。 復讐の鬼だったヒルメスが、部下を思いやり、次代へ希望を託すような振る舞いを見せる姿には、皮肉にも「王」としての器の成長を感じずにはいられません。
イスファーンとシャプール、叶わなかった兄弟の共闘
「兄上と一緒に戦場を駆けたかった」というイスファーンの魂の叫びに、消えゆくシャプールが返した「俺もだ」という一言。 アトロパテネでの非業の死から始まった兄弟の悲劇が、最悪の再会を経て、ようやく心の通じ合いという形で幕を閉じました。クバートが魔道士を「シャプールを語るな」と一蹴するシーンも含め、武人たちの誇りが守られた瞬間でした。
アルスラーンの王命、ヴァフリーズという「壁」を越えて
師でもあるヴァフリーズを前に、ダリューンが躊躇するなか、アルスラーンが下した「ヴァフリーズを討て」という王命。 「私もともに背負う」という言葉には、かつて師から受けた恩愛を噛み締めつつも、パルスの未来のために私情を断ち切る「王」の冷徹さと慈悲が同居しています。ダリューンが叔父を剣ごと斬り伏せるシーンは、本作における「師弟・親子の決別」の極致と言えるでしょう。
サームの「生きるための」死地
「死にに来たのではない、生きるために来た」と言い切ったサーム。正義や正統が消え失せた混沌のなかで、それでも自分が選んだ主君(ヒルメス)のために戦い抜く彼の姿は、万騎長として意地と、パルスの武人としての矜持に満ち溢れていました。
第23巻は、読み進めるのが苦しいほどに、キャラクターたちの「情」が溢れ出した一冊でした。 これまでの物語で私たちが愛してきた、あるいは畏怖してきた「旧世代の英雄」たちが、蛇王の操り人形として再登場する。それだけでも残酷ですが、彼らが放つ言葉が、生きている者たちの痛いところを正確に突いてくるのが本当に辛い。
特にカーラーンがザンデに投げかけた言葉は、親心ゆえの歪んだ愛情だったのか、それとも単なる魔道の悪意だったのか。それに対し、ヒルメスがザンデを守るために自ら「親殺し」の汚名を被る姿には、これまでの彼への評価が覆るほどの衝撃を受けました。
また、ダリューンとヴァフリーズの対決も圧巻です。荒川先生の描く戦闘シーンは、重厚な剣戟の音の中に、常に「キャラクターの心」が乗っています。アルスラーンが「師でもあるヴァフリーズ」を討つ決断をした瞬間、彼は本当の意味でアンドラゴラスという個人の息子ではなく、パルスという国家の父になる覚悟を決めたのだと感じました。
しかし、ラストのアンドラゴラスの遺体の変異…。 旧世代の亡霊たちをようやく倒したと思った矢先に、最も強大で、最もアルスラーンたちを縛り付けてきた「あの男」が動き出す。絶望の夜はまだ明けそうにありません。
血の繋がりを否定し、師を討ち、過去と決別してきたアルスラーン。彼が次に立ち向かわねばならないのは、死してなお「王」として君臨しようとするアンドラゴラス(?)の執念なのでしょうか。続きが気になって仕方がありません。