ファイアパンチ 5 (ジャンプコミックスDIGITAL)
内容紹介
監督トガタの「カミングアウト」と、アグニの「着火」
映画狂いの美少女(?)監督トガタが、ついに白日の下にさらした「体と心の不一致」。そんなトガタの数百年分の孤独を受け止めた我らが主人公アグニですが、中身はまだピュアな15歳。姉弟のような、友人のような、はたまた「監督と俳優」という名の共依存のような、不思議な絆で宿敵ドマの元へ乗り込みます。
しかし、そこで待っていたのは、極悪人……ではなく、聖人君子のようなドマの姿。 「え、人違い? 復讐やめる?」と誰もが思ったその時、アグニの脳内に最愛の妹・ルナ(の幻覚)が囁きます。「お兄ちゃん、ファイアパンチになって」。
トガタ監督、渾身の自分語り
「女の体に覆われた男」としての苦悩を吐露するトガタ。数百年生きても癒えない心の傷に、アグニ(と読者)の心は激しくシェイクされます。でも、そんなシリアスな告白の直後に映画の話をぶっ込んでくるのがトガタ・クオリティですね。
ドマの「教養なき正義」
過去に村を焼き払った本人が、今は子供たちに「教養」を説く。 言いたいことはわかる気がします。でも、それでもちょっと引っかかる。 そんなドマと会話を交えたあと、アグニは復讐そのものを諦めてしまいそうですが・・
幻覚ルナの「悪魔の誘い」
帰路につくアグニの脳裏に「ファイアパンチになって」と囁く妹ルナ。 妹の皮を被ったアグニ自身の狂気なのでしょうか。 彼を再び「復讐の化身」へと変貌させます。
「音」が聞こえる、衝撃の無音回
一切のセリフも効果音も排除した、映画のワンシーンのような演出。アグニが拳を振るうたび、炎が爆ぜる音や、肉が焼ける音が耳の奥で再生されるような錯覚に陥ります。 演出が天才すぎて怖いです。
復讐の基準:相手が「良い人」になったら許せるか?
アグニが一度は拳を下ろそうとしたのも、逆に彼の優しさと、15歳という「子供」の部分が残っていたからこそ。 でも、そこで「ファイアパンチ」を召喚してしまうアグニの脳内ルナ。 先が読めないどころか、読者が敷いたレールの横を新幹線並みの速度で逆走していくような感覚です。
そして、『ファイアパンチ』という物語を、誰よりも特等席で、時に冷酷に、時に愛おしく眺めていたトガタ。彼が抱えていた「数百年分の退屈」と「心の渇き」を癒せるものは、映画以外に存在しないかのように見えます。
それなのに・・死を受け入ようとするアグニのためにトガタが選んだ行動は、ある意味で彼がずっと否定し続けてきた「自己犠牲」や「ベタな演出」そのものだったのかもしれません。 しかし、だからこそ、あの瞬間の彼の表情は、作中で最も「生身の人間」を感じさせるものでした。