アルスラーン戦記(21) (週刊少年マガジンコミックス)
内容紹介
血の継承か、志の継承か
王妃タハミーネから告げられたのは、残酷な真実でした。アルスラーンは王家の血を引かぬ、名もなき騎士の子。「この喜劇から降りなさい」という母の言葉に対し、少年は静かに、しかし決然と答えます。「今降りれば、私のために死んだ者たちはどうなりますか」。
王都では植える市民をそっちのけで戴冠式を進めようとするヒルメス。 彼もまたアンドラゴラスと魔道士から自らの出生の秘密を伝えられたものの、強引に王の座に就こうとします。 そこへ、伝説の宝剣ルクナバートを手にしたアルスラーンが登場。 「血統」を失った少年が、「人望」と「知略」、そして「自らの剣」でパルスの王座へ挑みます。
アルスラーンの「超克」と仲間たちの決意
自分の出自が王家とは無関係だと確定しても、アルスラーンは揺らぎません。「少しでもマシな政事(まつりごと)が行えれば」と語る彼に、仲間たちが捧げる忠誠のシーンは必見。特に「俺でよければ俺なりに」と飄々と答えるギーブの異彩を放つ忠義や、感極まるジャスワントなど、個々の個性が光る「最高のチーム」の完成に胸が熱くなります。
ヒルメス vs アルスラーン
戴冠式に乱入したアルスラーンとヒルメスの対決。アルスラーンがダリューンに頼らず、自らヒルメスと剣を交える姿は、彼がもはや守られるだけの子供ではないことを証明しています。ダリューンやギーブ直伝の技を駆使して「宿敵」を圧倒するシーンは、アルスラーンの成長が最も可視化された瞬間だと思います。
蛇王による運命の操作
原作小説では唐突にも感じられたイノケンティス王の行動。 今巻では、蛇王の影が彼を操る描写が加わったことで、「異教徒の王を神に捧げる」という狂信と魔道の融合として、極めて説得力のある最期として描かれています。アンドラゴラスという怪物ですら抗えなかった「超常の力」の恐ろしさが際立ちます。
アンドラゴラス、一瞬の「父性」
アルスラーンを「増長したか孺子(こぞう)!」と一喝するアンドラゴラス。 しかし、その直前に放った「……おぬしが本当の息子であればよかった」という小声の独白。冷酷無比な王が、初めて見せたわずかな「後悔」と「認め」が、その後の壮絶な展開をより印象深いものにしています。
第21巻は、まさに「血統主義への決別」を描いた見事な完結編でした。 ヒルメスもアンドラゴラスも、最後まで「血」という呪いに縛られ、互いを憎み、あるいは己の出自に絶望しました。しかしアルスラーンだけは、タハミーネから「何者でもない」と断言された瞬間に、皮肉にもあらゆる呪縛から解き放たれたように見えます。
「血」がないから、ルクナバートは抜けない。けれど、「志」があるから、民は彼を呼び、ギランからの物資で飢えが満たされる。ザラーヴァントが「アルスラーン・コール」を煽るシーンの爽快感は、まさに「血よりもメシ、血よりも徳」という、ナルサスが目指した理想の結実そのものでした。
また、アンドラゴラスの最期には圧倒されました。魔道士の揺さぶりを「汝などに運命を左右される柔弱者なら死ねばよい」と一蹴する強靭な精神。そして、因縁深いイノケンティスに道連れにされる皮肉。彼のような「旧時代の巨神」が退場することで、パルスは本当の意味で新しい時代へと進む準備が整ったのだと感じさせられます。
ラストシーン、沈みゆく旧時代の王たちと、朝日のように昇る新王の予感。 「真の王者への道はこれからだ」というナルサスの言葉通り、アルスラーンの物語はここから、蛇王という真の災厄に立ち向かう、より壮大な「神話」へと変貌していくのでしょう。